鮨 みさき伸(のぶ)のこだわり
先人の積み上げた知識と技術をしっかり守りながら、現代的なエッセンスを加えた寿司を堪能することができる「鮨みさき伸」。ミシュラン星付き店「鮨みさき」から暖簾わけした若き寿司職人、長崎 伸裕さんが切り盛りする気鋭店だ。寿司屋のカウンターに座ると少しかしこまった気分にもなるが、ここは伸さんの朗らかな人柄もあり、終始リラックスして楽しめるのもいいところ。
メニューは基本おまかせで4,800Bと7,200Bの2コース。後者は食材がグレードアップするが両コースとも品数に変わりはなく、寿司10貫に巻物、アイディアあふれる一皿が4~5品で、その時期ならではの旬を堪能する構成となっている。食材は日本全国から最旬を見極め、豊洲市場を中心に九州や四国からも取り寄せる。取材時の食材は秋冬の美味を感じるもので、冬の味覚・ずわい蟹のメスの身をほぐして卵と混ぜた「香箱ガニ(セイコガニ)」は特に心に残るひと品。たっぷりの蟹味噌もまた、頬がゆるむほどの美味しさだ。
旬を追うように変化するネタの数々。冬限定の香箱ガニは、一つずつ丁寧にほぐした蟹の身と卵に、特製甘酢あんをさらりとかけて
太刀魚の繊細な味わいを生かしたシンプルな一品、手綱焼き。懐石料理出身の長崎さんは魚の扱いはもちろん、さっと炙る炭火の使い方もじつに絶妙。日本から届く栗を丁寧に裏ごしした茶巾にも美意識と研究心が息づく。口に広がる旬の味わいに、日本料理の豊かさを感じずにはいられない。
味噌漬けにした太刀魚を、細やかに編むことで食感や脂のりが均され、どこから食べても美味しいひと皿に
かと思えば、ちょっとしたサプライズを盛り込むのもこの店の人気の秘訣。こちらは牡蠣、アワビ、蟹、あん肝などを時期に応じて組み合わせながら、シャリと一緒にリゾット調に仕上げたシグネチャーメニュー。端正な江戸前寿司でありながらクリーミーな海鮮リゾットでもあるという、伝統の和食と斬新さが交差する試みに思わずニヤリ。追加オーダーが多いというのもうなずける。熱々のうちに召し上がれ。
上質な素材を吉野葛や生クリームでまとめた和風リゾットはひと口ごとに感動。この日は鱈の白子をあしらって
特筆すべきはシャリの旨さだろう。米酢と赤酢を独自にブレンドし、米本来の甘さを生かした仕上がりは寿司ネタとの相性も抜群。まぐろの脳天部分を特製の醤油に漬けこみ、北海道産の雲丹といくらをたっぷりあわせた華やかな巻物は、まさにここでしか食べられない逸品だ。
まぐろの魅力を最大限に引き出し、雲丹といくらの濃厚な旨味を重ねて。刻んだいぶりがっこがアクセントに
本当に新鮮な雲丹だけが持つ、天然の甘みが炸裂するこちらの一貫。ひんやりした雲丹とあたたかいシャリが口の中で渾然一体となって消えゆく新体験をぜひどうぞ。
甘くとろける黄金色の雲丹は北海道産。料理によって雲丹の産地も使い分けながら、味の違いを楽しませるのもニクい
静岡御殿場産の生わさびなど、脇を固める食材や調味料にも一切の妥協がなく、ネタへの細やかな仕事、完璧な火入れ、絵画のような美しい盛り付けと、懐石料理をベースに自由な発想で組み立てるコースには和の魅力が詰まっており、何より職人自身が楽しんでいるのが伝わってくる。食事の進行や腹具合、会話の邪魔をしないようにと、全ての客に寄り添う接客も気持ちがよく、友人同士や家族連れ、接待利用まで連日賑わっているのも大いに納得。日本料理の奥深さを知るならうってつけの一軒だ。
サラデーンソイ1のBandara Suites Silom内に4年前にオープン。シーロムの喧騒から逃れたエリアに佇む隠れ家的名店だ